2003年2月28日 東京教区各教会・礼拝堂御中 牧師・管理牧師・チャプレン各位 日本聖公会東京教区 イラク危機に関する声明わたしたち日本聖公会東京教区正義と平和協議会は、イラク問題の解決に際していかなる武力行使にも反対します。 国際紛争は武力によってではなく平和的に解決すべきです。「殺してはならない」(出エジプト20章13節)という戒めはキリスト教信仰の基礎であり、イエス・キリストは憎しみや復讐を禁じたばかりでなく、「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」(マタイ5章44節)と教え、「剣を取る者は皆、剣で滅びる」(26章52節)と武力の行使をいさめられました。しかしながら教会はその歴史の中で、福音の教えに反して自ら軍隊を組織して武力を行使したり、他宗教の人々を侵略したり、国家に迎合して戦争を肯定したりした罪を負っています。今わたしたちはこのことを深く悔い改め、「平和を実現する人々は、幸いである」(5章9節)とのみ言葉を銘記したいと思います。 すべての国家の責任ある立場の人々は国際紛争の平和的解決のため忍耐強く最大限の努力をしなければなりません。これは侵略と戦争に明け暮れた人類の反省の成果です。一方を「悪」と決め付ける姿勢ではなく、対話と協調の精神で平和的に紛争の解決にあたることこそが21世紀の智恵であり、勇気であるはずです。全人類を絶滅の危機に陥れる核兵器の開発禁止や大量破壊兵器の放棄は、イラクや朝鮮民主主義人民共和国だけではなくすべての国家に課せられるべき義務であり、平和実現の最重要課題であると信じます。 今般のイラク危機解決のため、アメリカ政府は武力によるフセイン政権打倒を示唆しています。しかしこのことは世界を覆い尽くそうとしている憎しみと暴力の連鎖を加速させることはあっても、全人類が享受すべき平和実現のためにいかなる効果も発揮しません。持続的な平和は正義の実現を前提とします。貧困、民族差別、宗教的不寛容など根本的な問題解決こそが平和実現の優先課題です。いまこそ国際社会は、軍備にではなく、貧困の解消のためにあらゆる資源を投入すべきであり、富の不均衡の是正と諸民族間の正義と和解実現のために最大限の努力を行うべきです。 イラクの人々は、湾岸戦争以来の「経済制裁」によってすでに甚大な被害を受けています。強大国や独裁者の誤った政治によって被害を受けるのは、弱い立場の人々、子供、女性、高齢者たちです。戦争によって死地に赴くのは国家の指導者ではなく兵士達です。わたしたちは、痛みを持つ人々に対する感受性を豊に発揮して、権力者達の思惑に翻弄される弱い立場の人々を想い起し、小さな声が尊重される民主的な社会制度の実現を目指さなければなりません。 平和憲法を持つ日本の政府が、米英などと共にイラク問題の武力による解決を望んでいるのは恥ずべき誤りです。日本政府は、後方支援を含めいかなる戦争に対しても協力すべきではありません。わたしたちは1999年8月15日に日本聖公会首座主教名で発表された「平和アピール」を再確認し、「日米防衛協力指針」「周辺事態法」に強く反対します。わたしたちは日本政府に対し今回のイラク危機においていかなる戦争協力をもしないよう強く求めます。絶対非戦を貫くことこそ、戦争の加害と被害を共に体験した日本が国際社会に貢献する道であると信じます。 平和の実現は常にキリスト者の祈りであり、すべての宗教は平和の実現を希求しています。戦争は神の愛を傷つけ被造世界を堕落させ破壊する悪の力の結果であるばかりでなく、殺戮、破壊、弾圧、差別などによって新たな憎悪と悲しみの連鎖を生み出してしまいます。キリスト者にとって、戦争防止と平和実現のために闘うことは洗礼の約束の忠実な実行であり、わたしたちは、今般のイラク危機を覚えて全世界の宗教者、平和を願う人々と共に平和の祈りの輪に参加し、共に行動したいと思います。 最後に、この危機に際して同様の声明を発表している日本キリスト教協議会(NCC)、アメリカ聖公会総裁主教フランク・T・グリスウォルド師、英国聖公会カンタベリー大主教ロワン・ウィリアムズ師、カトリック正義と平和協議会に連帯を表明します。 各教会、礼拝堂において以下の主題のもとに代祷をおささげください。・イラク問題の平和的解決のため・すべての国家が核兵器を含む大量破壊兵器を放棄し非武装の道を歩むため・戦争、テロの犠牲者のため・貧困、抑圧に苦しむ人々、特に、「経済制裁」のために苦しむイラクの人々のため・すべての為政者、政治指導者、特に国連安全保障理事会の人々のため行動提起「キリスト者平和ネット」などの呼びかけに応じて、武力行使反対のための行動にご参加ください。 |